最後の競技は村の外れで行われるらしい。観客の村人たちがやや興奮気味にぞろぞろと最後の舞台へ向かって移動している。次の競技も毎年恒例のものらしく、優勝候補も合わせて今年は誰が一番になるかあちこちで議論が交わされていた。大会の優勝候補はもう、ほぼ二組に固定されてはいるが。
その優勝候補のうちの一組は係の者の案内ですでに所定の位置についていた。美しい銀色のツインテールをなびかせいつでもどこでも自信に満ち溢れた笑みを浮かべるソディと、深緑の髪の下で優勝を見据えひたむきに頑張る真面目なマツバの宝珠ゲッターズチームだ。たった二人のチームにも係わらずその実力は誰もが認めるほどで、優勝は彼女らなのではないかという予想が大多数を占めていた。賭けが行われていれば大本命という奴だ。
そして今、そんな期待の宝珠ゲッターズと並んで優勝候補になっているもう一組がこの会場へと辿り着いた。確実に勝ち進んでは来ているものの、あまりにも不安定でデコボコとした変な人たちの集まりだという事でこちらを推す声はいまいち少ない。きっとそのチーム名にも問題があるのだろう、我らがヘリアンサス様と愉快な下僕チームである。

「はあ。仮に優勝できたとしてもこの変態的な名前を残したくは無いな」
「仕方なかろう。エムオの暴走を止めることが出来なかったお主の責任じゃ」
「俺のせいなのかよ!」

ハクトから自分に非があるような言い方をされて不満の声を上げるハルだったが、どんなにこの変態的なチーム名が嫌でも優勝を諦める気はさらさらなかった。何せ優勝を諦めることは即ち、自分の命を諦める事とほぼ同意であるためだ。遠くから残虐な青い瞳がこちらを涼しげに見つめている視線を感じる。あいつの下僕だけにはなってやるものかと、ハルは気合を入れ直した。
しかしその入れ直した気合も、最後の競技に使われるあるものを目の前にして戸惑いに沈んでいってしまう。ハルの戸惑いが伝わったのか、隣のカエデもパチパチと瞬きをして首を傾げている。

「ハル、これは何?」
「……いや、それは俺が聞きたいんだが。何だこれ、馬車?」
「引いているのは馬ではないがの」

まず目についたのは、簡素な箱だった。大きな歯車が二つ左右についただけの、使い古された木製の箱状の荷台だ。多く見積もってもハルが五人分入るかどうかという大きさ。そしてその箱を引く生き物がまた、珍妙な奴だった。
牛のような大柄な体に羊のものよりも太くて固そうな毛がみっしりと生えていて、その大きな毛玉から馬のような力強い足が四本にょきっと地面に伸びている。でも顔は豚っぽい。そいつがぶーぶー鳴きながら出場チームの数だけ横一列にずらりと並んでいた。ハルも初めて見る生き物だ。

「何だよこの生き物は。何かバランス悪いな」
「わしもこの目では初めて見るのう。噂に聞いた程度じゃが、こいつが恐らくバルバルじゃな。この地方に古くから生息していた生き物でな、野生のものはもう少し小柄で体毛も薄い。草食で、そのあたりに群生している野生のコバルトラキイチゴが好物らしいな。家畜化したものはこうして荷台を引いたり毛を刈って衣類などに使用したり食べたら美味かったりと、このあたりの地方では重宝されているらしいぞ。バルバルステーキといえば知る人ぞ知る有名な絶品料理じゃ、わしも一度食べてみたいものじゃな」
「ハクトさん、カンニングなんてしなくてもクイズ優勝出来たんじゃねえか……?」

相変わらず本も見ずにスラスラと出てくるハクトの解説を聞いて、改めてそのバルバルという生き物を見る。話を聞く限り、この全体的なバランスの悪さは元かららしい。生命の神秘である。係の人に案内されて一番最初にバルバルに近づいていたヘリオもどこか感心したように眺め回していた。

「へー、このごちゃまぜ感、逆に芸術を感じるほどだね。俺様の琴線に微妙に引っかかりそうで引っかからないようで……いややっぱ無理。生の家畜は貴族の俺様にはとても無理」
「ふーん、自分が家畜扱いされたら喜びそうなのにな、お前」
「そりゃあ美人に下等生物めって罵られたら喜ぶよ!世界一美しい家畜になるよ俺様は!」
「そんな世界一はいらん!」

ハルもバルバルに近寄り、そっと触れてみる。ごわごわした毛が指に絡んできて、思っていたよりもう少し固い。そこでハルは、先ほどマツバから聞いた言葉を思い出していた。そう、これから行われる最後の競技について。
確か、乗り物が準備してあるようなことを、言っていた。

「……まさか、最後の競技の乗り物って……こいつ?」
「さあ皆さんお待たせしました!第26回バルトラ大会最後を締めるのは毎年恒例この競技、バルバルレースでーす!」

ハルの疑問に答えるように今回の司会のお姉さんが声を張り上げ、観客から歓声が沸く。盛り上がっているようだ。状況についていけてないハルはいまいち盛り上がれていないが。

「ルールは簡単!バルバルに荷台を引かせて決められたルートを辿り、ゴールに一番早く辿り着いたチームが勝ちです!コースは大体このルトラ村を大きくぐるりと回ってここまで戻ってくる感じです、ええそうですゴールはここ、スタート地点と同じ場所です!要所要所のチェックポイントに係員が立っていますから、ショートカットなんてしてはだめですよー!」
「質問よろしいかしら、今回他のチームの妨害は許可されていますの?」
「良い質問ですね!バルバルと荷台、そして人間を直接傷付けることは禁止されていますが、それ以外でしたら大丈夫です!知恵を振り絞り、平和的にどんどん妨害して下さい!」
「直接攻撃する事は駄目という訳ですわね、つまらないですわ」

質問したソディが実に残念そうに引き下がるのを見て、ハルは司会のお姉さんに拍手を送りたくなった。実際に手を叩いたら変な目で見られる事確実なので心の中で叩いておく。

「バルバルは手綱と鞭を使って走らせてください!大丈夫です、バルバルはご存じの通り温厚な性格ですが、本気を出して走る時は走るんですよ!荷台に皆で乗っても下に降りてバルバルと一緒に走ってもどちらでも結構です!それでは出場者の皆さん、位置について下さい!」

出場者の中で、大多数の村出身者らしき人たちは慣れた様子で準備を進めている。普段からバルバルを飼い慣らしているのだろう。ハルの顔に焦りが浮かんだ。

「おいおい、このバルバルって奴と初対面の俺たちは不利って事じゃないか?」
「焦るでないハム。わしらは優勝一歩手前にいるのじゃ、他の者には負けてもソディたちにさえ負けなければ良いじゃろう」
「あ……そ、そうか、さすがハクトさん。そうだよな、こいつの扱いに不慣れなのは同じだし、あいつらより不利って訳じゃないよな……!」

ちょっと絶望しかけた所で希望を見出したハルが、ほっと息をつきながらソディとマツバの方へ視線を向けてみると、

「どうどう。……よし、素直な良いバルバルだ。直接こうして触れ合うのは数年ぶりだが、いけそうだな」
「さすがマツバですわ。この美しい体から溢れ出すあまりの気品さのためか、何故かわたくしが手綱を握ると脅えて動かなくなってしまうのが困りものですわねえ」
「か、完璧に手懐けているだと……?!」

手綱を握るマツバにバルバルが素直に従っているのは、傍から見ていても明らかだった。どうやらマツバは過去にバルバルとの交流経験があるらしい。思わずぽかんと立ち尽くしたハルの後ろからそれを覗き込んだハクトが、可愛い顔をしかめて唸る。

「むう、なるほどマツバはバルバルを扱った事があったか。誤算じゃった。まあこの辺りは住処からそう離れておらんからの、そういう機会があってもおかしくは無かったか」
「え?マツバの住処?」
「ああ、いや、何でもない忘れてくれ。それよりハムよ、状況はより不利になりおったぞ。わしは生憎バルバルを扱う術を持たぬ。さて、どうする?」
「ど、どうするって言われたって……」

慌てながらもとりあえずハルは荷台を覗き込んでみた。バルバルから伸びる手綱とその体を叩くための鞭が置いてある。これでこの未知の生物を走らせなければならないのだ。鞭を手に取ってみて、まったくしっくりこない持ち手に途方に暮れる。

「俺もこんな生き物を走らせる経験なんて持ってねえよ。こういう鞭だって今生まれて初めて手に持ってるし」
「え?冗談でしょヒメ。俺様と初めて顔を合わせた時あんなに情熱的にテクニカルに俺様の体を熱く鞭打ったくせに?」
「そんなおぞましい記憶は一切忘れ去ったわ。……カエデ、が出来る訳ないし、ハクトさんも無理だとすると、俺たちは一体どうすりゃいいんだよ……!」

空を見上げて絶望の声を上げるハル。その肩をトントンと叩かれてゆるゆると振り返ると、満面の笑みで己を指差すヘリオの姿があった。見なかったことにした。

「ちょっとちょっとヒメ、放置プレイはやめてってば」
「いちいちプレイとか言うな気持ち悪い!何なんだよ!」
「だから、俺様がいるでしょって事。まあこいつを直接操った事は無いけど、乗馬経験ぐらいはあるし、何とかいけるでしょ!」
「は?乗馬経験?お前が?」

馬は立派な移動手段だが、値段が高いし世話も大変だし乗るのにある程度訓練もいるしでその辺の旅人が自前で持っている事は稀である。皆その道程に合わせて歩いたり馬車を利用したりしているのが主だ。多くの荷物を持って移動する行商人も早さより力や値段を重視して他の生き物を選択する場合が多い。旅をする必要が無い一般人が大金を用意して馬を必要とする訳が無く、馬を持つのは必然的に国や金持ちが多いのが現状だ。おかげでハルは馬と言えば金持ちの道楽で乗るものだというイメージがあるほどだった。
ハルが驚いて思わず指を差すと、ヘリオは誇らしげに胸を張った。その自慢げな顔がとてもむかつく。

「そりゃーだって俺様、生まれつき高貴な身分だし、馬ぐらい乗った事あるある!どうよ、俺様の魂のように一点の曇りもない美しい白馬に跨るさらに美しい俺様の姿、想像してみな?この世の宝でしょ?それとも眩しすぎて一般人のヒメには想像も出来ない?」
「あー、確かにそれは想像できないな、あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて」
「馬鹿馬鹿しくないよ!史実だよ!」
「うるせえ!とにかく、お前はバルバルを走らせることが出来るんだなヘリオ!」
「んーまあ、まったくそういう経験無いヒメ達よりはマシって程度だと思うけどねー。とりあえずこのヘリアンサス様に任せてみなって!」
「はあ……仕方ないか……」

気は進まないがヘリオの言う事にも一理あるので、ハルは大人しく手に持っていた鞭をヘリオに渡した。ヘリオも自前の鞭は持っているがそれは動物用ではないため、大人しく手渡された鞭を受け取る。自分の運命を決めるこの最後の競技でまさかヘリオに全てを託さなければならないとは、ハルの胸に不安が広がった。

「いざとなったらバルバル引っ張って俺たちが走るか……」
「大丈夫だ、ハル。その時は私があの生き物とハルを背負って走るから」
「頼むからやめてくださいお願いします」

どうしてもハルを背負って走るつもりのカエデを必死に止めている間に、全てのチームの準備が整ったようだった。ハルたちも急いで全員が荷台に乗る。ヘリオだけが手綱と鞭を持ち、箱から身を乗り出した。

「それでは皆さん、準備はいいですかー!いきますよー!」

お姉さんの掛け声に、騒がしかったその場が一瞬緊張でしんと静まり返る。ハルも不安が爆発しそうな胸を抱えて、行くべき前を見据えた。この競技で全てが決まる。自分の人生がここからまた続くのか、ソディによって終わりを迎えるか。運命は二つに一つだ。司会のお姉さんが見えやすい台の上に立って、片手に大きめの旗を振り上げる。

「位置について!よーい……」

ごくり、と聞こえた喉の音は誰のものだったか。

「どん!」

お姉さんが旗を振り下ろしたと同時に、並んだバルバル車全てが掛け声を上げ、手綱を振るい、鞭をしならせた。ぶーぶーというバルバルの鳴き声がうるさいほどに重なり、次々と荷台を引っ張って走り出す。一番最初に飛び出したのは、人数が少ないからかその手捌きが良かったのか、マツバの操る荷台だった。その後に続々と村人たちのバルバルが走り、その遠ざかっていく後ろ姿を、なかなか走り出そうとしないハルたちのバルバルを一生懸命にけしかけながら情けない気持ちで見つめる……。
と、そういう最悪の事態を想定して念のために覚悟していたのだが、その覚悟は無駄になった。

「はいよーっバルバルちゃーん!俺様の清らかな心を運んでどこまでも進めー!」
「す、すごいぞヘリオ!マジでバルバルがちゃんと走ってるじゃないか!」
「どーよ俺様の実力!さすが美の女神に世界一愛された男、才能に恵まれすぎてて俺様自分がおっそろしいわー」

言っている事は限りなくむかつくが、バルバルはヘリオの手によってなんとマツバ達のすぐ後ろを走っていた。つまり現在二位だ。信じられない事態にハルはあいた口が塞がらない。ついでにバルバルの走りが予想以上に早くてちょっぴり怖い。ガタガタと揺れる箱の中でもお構いなく本を広げているハクトも、意外そうにヘリオを見つめている。

「これはまた嬉しい誤算じゃったのう。エムオには度々驚かされるわい」
「ふふーん!チビに褒められたって別に嬉しくは無いけどせっかくだから俺様への賛美は受け取ってやってもいいぜ!ほら、もっと俺様の美を称えな!」
「そうじゃな、褒美として後で電撃と火炙りの刑に処してやろうぞ。楽しみにしておくがいい」
「いくら俺様でも褒めるべき所は素直に褒めるべきだと思うんですけど!」

無駄口を叩いている間はコースも直進のみだったので何事もなかった。しかし村を抜け出し平原を少し走ったところで、道は曲がりくねっていた。平原をぐるりと回ってスタート地点に戻るコースなのだから道が曲がっているのは当たり前である。しかし目の前に迫る道は無駄にグネグネと曲がりくねっていて、明らかに競技用のものだと分かった。さすがにヘリオもスピードを落とす。

「うひゃー、何これ嫌がらせ?無駄にぐねぐねぐねぐね……まるでヒメの根性のようだね」
「お前の性根だ、お前の」
「ハル、後ろの人たちがどんどん追い越していく」
「くそ、ここは仕方ないか……」

曲がりくねってはいるがバルバル車のためか無駄に広い道の上、ハルたちがもたもたしている間に後ろを走っていた村人たちはすいすいと隣を抜けていく。さすが、普段からバルバルたちと共に暮らしている者たちにテクニックは敵わない。焦る心を抑えてハルは、ヘリオの背中を景気づけにバシバシと叩いた。

「おいヘリオ焦るな、じっくり行くんだじっくり。俺たちは俺たちのペースで行くんだ、それが一番なんだ、なっ!」
「痛い痛いヒメこそ落ち着いて!もっとスナップを効かせて、想いを込めるように力強く、速く走れ卑しい下僕めって口汚く罵りながら、そしてどうせならカエデ様に叩いて欲しい!」
「真面目に走らないとお前一週間飯抜きな」
「やめて痛みを伴わない責め方はやめて」

くだらない事を言いながらもヘリオは手綱を引いて何とかバルバルを誘導する。ぐねぐね地帯を抜ける頃には、すぐ前にいたはずのソディ達の姿が見えなくなってしまっていた。内心冷や汗を垂らすが、まだまだこのバルバルレースは始まったばかりだと、ハルは自分に言い聞かせる。

「ハル」

ハルが荷台から落ちないようにと背後でずっと見守ってくれているカエデがまるで励ますように声をかけてくれる。一度振り返ってその赤い瞳を見つめると、不思議と不安が薄まるような気がした。きっと何があってもカエデは諦めずに何とかしようとしてくれるという確信があるからだ。カエデに頼り切っているなあと若干情けなく思うハルだったが、今だけは変に虚勢を張らずに心の支えにしようと密かに考える。

「……エムオ、前方に注意せよ」

ふいに、我関せずといった様子でマイペースに本を読んでいたハクトが声を上げた。その金色の視線はサングラス越しにいつの間にか向かう先を睨み付けている。先頭に追い付くためにスピードを上げていたヘリオが、その言葉にムッと頬を膨らませる。手元が狂うと困るのでハルは目の前の金髪頭をどつくのを辛うじて止めた。

「進んでる先を注意するなんて当たり前の事じゃーん、チビッ子からの無駄な忠告なんていらないから、この俺様の輝かしい雄姿を黙って見てな!」
「馬鹿者、よく見よ。油断をすればすぐにあの者たちと同じようになるぞ」
「は?あの者たち?」
「……!おっおいヘリオ、前!」

それにはハルもすぐに気付いた。言われてしっかりと前を向き直したヘリオも気付き、慌てて進路を変える。おかげで、荷台をひっくり返されずに済んだ。
そう、前方には何故か、先ほどハルたちをすいすい追い越して行ったバルバル車たちが悉く横転したり溝にはまって抜け出せなくなっていたりして、進路を塞いでいたのだ。少し道を逸れて脇を走る事で巻き込まれずに何とか先へ進めるだろう。すれ違い様に立ち往生している選手たちを眺めたハルは、その有様を見て驚愕した。

「な、何だあの地面、あれじゃ誰も先に進めないに決まってるだろ!」

何故バルバル車たちが道を塞ぐ事態になってしまったのか。その理由は一目瞭然だった。バルバルと荷台が安全に走れるように整備されているはずの地面が、ある場所から非常にデコボコとした状態で続いていたのだ。今しがた掘り起こされたかのように盛り上がったり掘り下げられたりしている落差は決して小さいものではなく、一部ではぽっかりと空いた穴にそのままバルバルがはまり抜け出せなくなっているほどである。
これがレースのために用意された障害物だとしてもやりすぎなのではないか。ハルは結構な長さのデコボコ道を眺めながら顔をしかめた。

「おいおい、これは俺たちだけじゃなくてバルバルまで怪我しそうな障害じゃないか。こんなの有りか?」
「ハム、この穴ぼこは元から用意されていたものではなさそうじゃぞ」
「え?それって……」

ハクトが無言で前方を指さす。デコボコ地帯を抜けてコースへと復帰したハルたちのバルバル車は、ちょうどスピードを上げて前を行くチームに肉迫している所だった。その、少し前を走る荷台に見える小柄な人影。傾いてきた太陽の光を反射して輝く銀色の髪が、風にあおられているのがよく見て取れる。
ハルは思わず言葉を失った。何故なら、実に偉そうに仁王立ちするソディのその右手には、瑠璃色に輝く巨大なスコップがあったからだ。

「おーっほっほっほ!直接傷付けさえしなければいくら妨害しても良いとのルール、寛大で慈悲深いわたくしは最後まで守って差し上げますわ!全身全霊でわたくしへの感謝に咽び泣きながら死の覚悟をなさい!」

直接傷付けないくせに死の覚悟をさせる矛盾に、しかしハルはつっこめずに顔色を青くさせるだけであった。
何故か今だけ、穴を掘るだけのその道具が死神の鎌に見えた。

13/09/28



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